続き
さて、16年ぶりに実の父親に会いに行くことになったのだがもちろんアポなしである。
勤め先と氏名が分かっているだけで連絡先など知っているわけもない。
突然職場に、
「お久しぶりです。あなたの息子〇〇と□□です。こちらに勤めていると最近知りまして会いに来ました。元気してる?」
とたずねてきても大変迷惑だろうし、そもそも会えるかどうかも分からない。
だがこの点についてはモーマンタイであった。ちゃっかり弟が調べていたのだが、実の父親の勤め先は、受付で氏名を伝え面会カードを記入することで、本人が出勤していればだいたいは面会できるという仕組みであった。
そういうことであれば、臆することなく堂々と会いに行けるなと安心した次第であった。
迎えた訪問日、私と弟は面会をかなり楽しみにしていた。
弟「いやー、マジでどんな奴なんやろ。やっぱ顔とか似てんのかな〜。」
自分「マジで驚くだろうな。なんてったって16年会ってない実の息子が仕事中にアポなしで会いにくるんだもんな。テンションあがるわ。」
雑談をしながら結構軽いノリで父親の職場に向かっていたのを覚えている。
実の父親に対しての感情だがあまり良いイメージはなかった。
ときどき母親が話す父親の人柄は、酒癖が悪く内弁慶だっただの甘やかされて育ったので精神的に弱くよく家族にあたっていただの、給料の額を偽りポケットナイナイしてただのロクなものでなかった。円満離婚でなかったので、母親のフィルターを通した偏った話だとは分かっていた。しかしそういう情報しか聞かされていないので、父親に対しては必然的にクソなイメージしか残っていなかった。
話を戻そう。
実の父親の職場は、自分の実家から車で20分程のところであった。よく車で通りがかっていた場所だ。こんな近くにいたんだ。
近くのパーキングに車を停め歩いて職場に向かった。受付が近づくと急に緊張が高まった。背広で来た方がよかったか?とかそんなことを考えていた。受付についた。
受付の人「こんにちは。ご用件は何でしょうか?」
自分「こちらに勤務しておられる〇〇△△△という方に面会をお願いしたいのですが…」
受付「わかりました。名簿を確認致しますのでお待ち頂けますか。ちなみに本人とのご関係は?」
関係を聞かれて何と答えたらよいものか困ってしまった。父親なのだが、16年も会ってないのにそのまま「親父です」というのも違和感があったので、一瞬悩んで事情を伝えた。
自分「えーっと、その方は自分の父親なんですが、離婚してから16年程離れて暮らしておりまして。最近こちらに勤めていると知ったのでたずねてきた次第です。本人と約束はしていません。」
受付の人「‼︎⁉︎」
受付の人「あー…、なるほど…。」
いきなり複雑な事情を聞かされた受付の人は、一瞬戸惑って気まずそうだったが、すぐに面会用の部屋に通してくれた。
面会部屋に入りソファに腰掛けた。
急に緊張が高まってきた。
自分「(うわっ、マジであと5分以内にきちゃうの?マジ何て声かけたらいいんだ?てかマジでおやっさんが来るんか⁈人違いとかじゃないよね?服もラフすぎたな、もちょっとフォーマルな格好でくりゃよかった!うおぉぉー‼︎)」
ドア「ガチャッ」
自分&弟「っ‼︎‼︎⁉︎」
おやっさん「えっ?(ぽかーん)」
おやっさんはマジで誰だか分からなかったようだ。私は間を空けず立ち上がり言った。
自分「お久しぶりです。〇〇と□□です。覚えてますか?最近ここに勤務していると聞いて会いにきました。仕事中にすみません。」
おやっさん「……えっ、〇〇くんと□□くん?えーーーーっっ‼︎」
おやっさんはむちゃくちゃ動揺して何を話してよいかわからない様子だった。それはそうだ、いきなりいつものウィークデイに16年会ってない息子二人が職場まで飛び込みで会いにきたのだから。顔もすっかり変わってしまっているので、事情を伝えてもしばらく信じられなかったようだ。
それから落ち着きお互いの近況や、離婚した後の生活について報告しあった。念のため、自分達がたずねてきたのはお金をせびりに来たのではなく、地元を離れる前に一度会っておきたかったのだと伝えておいた。
長いので一旦切ります。
3に続く